有機エレクトロニクスに関係する炭素ネットワークを中心に、さまざまな物性を予測する高効率プログラムの開発をしています。炭素の世界は魅力がいっぱい!
多環芳香族炭化水素(PAH)は、石炭や煤(すす)、化石燃料の燃焼の副生成物として地球上に普(あまね)く存在し、宇宙空間にも中性あるいはイオン性の状態として存在する可能性が指摘されています[1]。PAHは、光化学・分子分光・電子物性・発がん性にかかわる実験的研究や[2]、フロンティア分子軌道論をはじめとする理論的研究において、物理化学の基礎を築くことに大きく寄与してきました。近年でもなお、表面に吸着したPAH(特にペンタセン)や、炭素の同素体であるフラーレン、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン[3]といった「ナノカーボン」は関心を集めています[4]。PAHとナノカーボンは、表面科学や有機エレクトロニクスの研究に深くかかわり、そこから単一分子の物理化学が生まれようとしています。私たちは、カーボンナノリボンの振動分散関係を世界ではじめて構築することに成功しました[5,6]。
本研究課題は、日本学術振興会からの研究助成を受けました。
[1] Polycyclic Aromatic Hydrocarbons and Astrophysics, Wiley-VCH, New York (1987).
[2] Spetral Atlas of Polycylic Aromatic Compounds, Including Data on Occurrence and Biological Activity, edited by W. Karcher, R. J. Fordham, J. J. Dubois, P. G. J. M. Glaude, and J. A. M. Ligthart, Kluwer, Hingham, MA, 1985, Vols. 1 and 2.
[3] K. S. Novoselov, A. K. Geim, S. V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S. V. Dubonos, I. V. Grigorieva, and A. A. Firsov, Science, 306, 666 (2004).
[4] ナノカーボンの科学 (ブルーバックス), 篠原 久典, 講談社 (2007).
[5] M. Yamada, Y. Yamakita, and K. Ohno, Phys. Rev. B, 77, 054302 (2008). Selected in Virtual Journal of Nanoscale Science & Technology 17(8) (2008).
[6] 講演会:山北佳宏「多環芳香族炭化水素とナノ炭素構造の電子・振動状態」、早稲田ウィークリー2008年5月8日号.